電車内での暴行犯を捕まえた話
お手柄私です。
最近話題の痴漢冤罪記事なんかを見ていて思い出した出来事が2つほどありまして、そのひとつ、男である自分が痴漢にあったという話を前回書きました。
電車の中で何かしらの被害にあった方は(電車とも限りませんが)、なかなか声をあげることができないということを身をもって実感したので、できるだけそういう場面にでくわしたら、手助けしたいなと思ったわけです。
そしたら、そんな場面にでくわすんですよね。
ナポレオン・ヒルの『思考は現実化する』ってこういうことか! と思いました。読んだことないですけど。
それは数年前のこと。
その日は仕事の都合でいつもよりも少し遅めの帰宅になってしまい、某駅10時過ぎ発の列車に乗っていました。それなりに混んでいて座ることができず、ロングシートの前で立っていたのです。
しばらくすると、右隣のおっさんとおっさんの目の前に座っている女性の間で小競り合いが始まりました。両者とも足が小刻みに動き、陣取り合戦の様相に。
横から見ていてどっちもアホかと思いましたが、どちらも声を上げられないという感じではなく、いかにもタカ派。
迷いましたね。
どちらかがハト派であれば、確実に止めるところですが、タカ派どうしの小競り合いに関係ない自分が割り込んだほうがいいものかどうか。女性も失礼ながら、まったく弱そうな感じもしないこともあって、静観していました。
そのうち某駅に到着。おっさんが降りるらしく、棚の上の荷物に手をかけました。すると、その荷物を女性の頭にガツン!
これはアカンな。
いくらなんでもこれはアカン。ということで、おっさんの手をとり「降りるぞ」と。
おっさんも応戦し、手を振り払い、こちらを思いっきり押してきました。それを見ていた周りの人たちも手助けしてくれて、おっさんをなんとか取り押さえ、下車。
最後尾車両だったため、車掌に「駅員呼んでください!」と伝えて、ふと我に返りました。
おっさんを押さえているのは自分ひとり。ホームのど真ん中で。左には自分が乗っていた電車(急行)。右には急行待ち合わせをしていた電車(各駅)。
両方の電車のドアが全開のまま、すべての乗客が自分とおっさんを凝視しているのです。
被害にあった女性は悠然と席に座っているようですし、一緒に手助けしてくれた乗客たちも電車の中。
各駅の電車の乗客からは、「おいおい、早く発車させろよ〜。何やってんだよ〜」の声。
はあ?
はぁ!?
なにこれ、俺が悪いヤツみたいじゃん!
その後、駅員が到着した後、ひとまず駅事務室に行きましょうということになったんですが、被害女性は降りる気配がありません。
俺はなんのためにこのおっさんを確保したのか?
一瞬で自問自答しましたが、まったく意味がわかりません。数分後、駅員にうながされて女性も下車。その間、電車は止まっていたわけで、乗客から冷たい視線を浴びていたのは何を隠そうこの私であります。
結果、警察沙汰になり、自分、おっさん、女性とも最寄りの警察署へ。それぞれ別室で取り調べを受けることに。
まあ、こちらは一切悪いことはないというのが警察もわかってますから、警察官とも雑談を交えながら、軽い感じで取り調べ。
警察官は、自分の結婚式でも警察官としての正装でなければいけないとか、警察官が飲みに行くときは申請を出さないといけないとか、何の役にも立たないけれども、へえボタンを数回押す程度のおもしろい話を聞かせてもらいました。
そんな感じで取り調べが終わったのが深夜2時。取り調べをした警察官は、「こんな遅くまですみませんね」と声をかけてくれましたが、
「この件については後ほど謝礼が出ると思います。2万円ほどじゃないですかね」
という言葉がなによりのねぎらいでございました。
深夜2時ともなると電車もありません。なので、パトカーで送ってくれたのですが、サイレンは鳴らさないものの、パトランプバリバリで深夜の街を疾走するわけです。
「あの〜、世間体もあるので、自宅近くになったらランプ消してもらえますかね……」
「ああ、そうですね、了解しました」
あの時の自宅や近所の家々に映るパトランプの赤い光を私は忘れることができません。
その後、その犯人と女性がどうなったのかは知りませんが、鉄道会社からもお礼として鉄道グッズをいただき、警察からは謝礼ももらえるということで、自分の中ではまあよかったのかな、と思えるようになりました。
自分が手助けだと思ってやったことは、女性にとって果たしてよかったんだろうか。
そう自問自答しましたが、鉄道会社と警察の双方からお手柄ですと言われたことでまあ納得した部分はあります。
そして、後日警察が自宅にやってきて(その時の赤い光も忘れることができません)、謝礼をいただきました。
うん、やはり間違ったことはしていなかったんだ。
そう思って、警察官が差し出した書類(確実に受け取ったという領収書のようなもの)にサイン。人生で一番気持ちのいいサインでした。高揚していたからか、よく書類を確認せずにサインをしたのですが、その後に書類に書かれた文字を見たときの気持ちを、私は忘れることができません。
金10,000円也
え?
いいんですけどね。私からは以上です。