ビール時報

富江弘幸(ビールライター)公式サイト

男の自分が痴漢にあった話

この記事をシェアする

被害者の私です。

ビールの話でも、本の話でも、旅の話でもありませんが、まあまあおもしろい話(興味深い話)に入るような気がするので、ちょっと書いてみようかと。

 

最近、痴漢冤罪が話題になっていますが、それで思い出した話です。

 

男の自分が痴漢にあった話

実は自分も痴漢にあったことがあります。男なのに被害者? と思われるかもしれませんが、表面化しないだけで意外とあるようです。

 

20年ほど前、自分が大学生だった頃、学ランを着て満員の中央線に乗っていました。大学生なのになぜ学ランなのかというと、体育会系サークルに所属していたからです。

体育会系なのかサークルなのかよくわからない表記ですが、正式にはサークルです。しかし、やっていることはかなりキツめの体育会系という、何のメリットがあるのか疑問を持たずにはいられないサークルでした。

例えば、

「先輩が黒といったら白でも黒」(白でしょ)
「飲み会は先輩が『飲んでいいぞ』と言うまで飲んではいけない」(犬か)

など、という体育会系にありがちなルールが存在し、その伝統を重んじる姿勢に魅力を感じ志望いたしました結果しっかり4年間活動してしまいました。

 

まあ、そのあたりは本筋ではないのでこの程度にしておきますが、基本的にサークル活動がある日は学ラン着用というルールがあり、そんな理由で学ラン(長ラン)を着て中央線に乗っていたわけです。

 

で、もう少しで三鷹に着くというところで、お尻に手のひらの感触が。

 

まったく警戒していない状況で、お尻です。男の尻なんぞ他人にそうそう触られる部分ではありませんから、お尻は油断していました。軽くビクッとしてしまったような気もします。

 

そして、何秒か後。

 

実際には何秒だったのかわかりません。もしかしたらコンマ何秒だったのか、それとも何十秒だったのか。

 

…またお尻に手のひらの感触が! しかも撫でている感じがする!

 

この時点で、おそらく意図的だろうという感じがありました。意図的だ。明らかに自分のお尻を狙っている。うら若き男子のこのお尻を!

 

ですが、何もできないんですよね、これが。何もできない理由としては2つ。

ひとつは、なんだか恐ろしい感じがしてしまい、どう対応すればいいかがまったくわからず、頭が真っ白になってしまうから。

痴漢された女性がよくこういう状態になると聞きますが、身をもって実感しました。この状態で痴漢した人の手をつかんだり、「痴漢です」と言える女性はなかなかの勇気の持ち主だと思います。

 

もうひとつは、自分が男だったから。頭が真っ白になりつつも、徐々に状況を理解してくると、どうにか対応しようと思うわけです。でも、手をつかんで声を上げても、「え? 男に痴漢? そんなわけないでしょ」と周りの人に思われてしまうのでは、と考えてしまうんですよね。もしかしたら、これは自分だけかもしれませんが。

 

そんなわけで、2回触られても耐えていました。が、3回目。またやられたんですよね。

 

うーん、どうしたものか。触られている間、ずっと悩んでいましたが、もうすぐ三鷹に着くということもあって、せめて顔を確認してやろうと、思い切って振り向いてみました(実際にはちょっと首を傾けて横目で確認した程度だったと思います)。

 

すると、そこにいたのはガタイのいい白人男性!

 

これは……もう膝から崩れ落ちそうになりましたね。痴女ではなく痴漢だったのかということと(なぜか犯人は女性ではないかと思いこんでいました)、日本人じゃなくて外人だったのかということ(力ではかなわなそうだし、何か言っても言葉が通じないのではという絶望感)。

 

いや、ホント絶望感ですよ。

 

これって、女性が痴漢にあったときの気持ちに近いんじゃないかと思ってますが、どうですかね? たぶんそうだと思うんですよね。

 

そうやってまた何秒か何十秒かわかりませんが、固まったまま我慢していると三鷹に着きました。

でも、扉が開いても、なぜかダッシュで逃げることもできず。「私は逃げていませんよ、元々ここで降りるつもりだったんですよ」的な感じで、ゆっくりと電車を降りました。

山でばったり熊に会ってしまった時みたいですね。熊に会ったことはありませんけれども。

そして、軽く振り返りつつ、その白人男性が追いかけてこないことを確認。そこからダッシュで2両先の車両に乗り換えました。

 

助かった。

 

そう思いました。なんなら1本後の電車に乗ればいいのにとも思ったりしますが、この時はそう思いました。

 

そうして人生唯一の痴漢被害体験は終わったわけですが、こういう状況って脳の思考能力がちょっとおかしくなるということもわかりました。脳科学的にはどうなのか知りませんが、自分の体験として。

 

まず、脳が思考停止します。

最初に触られた時に頭が真っ白になった状態ですね。本当に何も考えられないんです。つまり、体も動かない。

 

さらに、自分の体験を否定します。

果たして本当に触られたんだろうか。気のせいなのではないだろうか。触っていたのは白人男性だっただろうか。それっぽく見えただけで日本人ではないだろうか。

そうやって、だんだん触られた感触もわからなくなっていきます。仮に、電車を降りて車掌や駅員に体験したことを伝えようとしても、たぶん説明できなかったと思います。どんどん脳が否定して忘れていっているので。

 

でも、時間が経つにつれ、状況や感触を徐々に思い出してきます。その記憶の気持ち悪いこと気持ち悪いこと。

 

どれくらい経ってから笑い話として話せるようになったのかは覚えていませんが、自分の場合は比較的軽症の部類に入るんじゃないでしょうかね。こうやってネタにもできてますし。

 

まあとにかく、痴漢はもちろん電車内で何かしらの被害に合っている人は声を上げられない人もたくさんいるはずです。実際に自分がそういう被害にあったからこそ、そういう現場に出くわしたら手助けはしてあげたほうがいいなと思うんですよね。

 

そう思っていたら、本当にそういう現場に出くわしてしまいまして、電車内で暴力を振るっていた人を取り押さえたことがあります。

その話も書こうと思っていたのですが、意外と痴漢話が長くなってしまったので、また次回。

 

それでもボクはやってない スタンダード・エディション [DVD]

それでもボクはやってない スタンダード・エディション [DVD]