飲んでおくべき基本のベルギービール(オルヴァル)
基本がブレそうになる私です。
何をするにも基本というのは大切です。確か、立川談春の『赤めだか』にこんなことが書いてありました。
「型がしっかりしていないと型なし。型がしっかりしている人がオリジナリティを出そうとしたら型破りになる」
記憶が曖昧ですが、こんな感じで書いてあったはず。
文章を書くときも型っていうのは確かに必要で、型ができていて崩しているのか、そもそも型がないのか、というのは、その文章を見ればだいたいわかります。「読む」のではなく「見る」だけです。
ただ、自分でも型は勉強してきたつもりですが、たまにその型がブレそうになることがあるんですよね。まだまだ勉強は必要なようです。
じゃあ、自分にとってのビールの型ってなんだろうかと考えると、ビールに興味を持ちはじめた頃に「まずはコレを飲んでおかないと」と考えていた銘柄かなと思うのです。世にビールは数多くあれど、知っておくべき基本のビールってあるんですよね。
そのひとつがコレ。「オルヴァル」です。
実は2年ぶりくらいに飲みました。
ビールはどんどん新商品が出るし、限定ものも多いし、飲んだことのないビールを飲まないと、と思うと、一度飲んだビールはそう何度も飲みません。そういうこともあって、前回オルヴァルを飲んでから2年近く経ってしまった、という感じ。なので、味の記憶も薄れてきていたんです。
いい機会なので、基礎固めしておきましょう。
さて、このオルヴァルは「トラピストビール」という修道院が造るビールのひとつ。修道院が造るだけでトラピストビールを名乗れるわけではなく、いろいろ条件があるんですが、ここでは省きます。
現在、トラピストビールを名乗ってビールを醸造しているのは世界で11カ所。そのうち、6カ所がベルギーでオルヴァルもベルギーです。
なぜオルヴァルという名称になったかというと、オルヴァル修道院で造られているからで、販売している銘柄も1種類だけということでストイックさを感じます(実際には流通していないビールも1種類造っている)。
じゃあ、修道院名のオルヴァルの由来は何なのかというと、「Val d'Or(金の谷)」だと言われています。「ヴァルドール」を入れ替えたってことでしょうかね。「Or Val」と。
実は、この修道院が建てられる前、その地を訪れたある伯爵夫人が亡き夫との結婚指輪を泉に落としてしまったらしいんですね。結婚指輪をなぜ落とすんだろうかとか、そんな大切なものを不注意すぎるでしょとか、いろいろ思うことはあるのですが、落としたらしいんです。
そうしたら、泉から女神が現れて「あなたが落としたのはきれいなジャイアンですか」なんてことになったわけはなく、マスが指輪を加えて持ってきてくれたんだそうです。そしたら夫人は驚いて「ここは金の谷(Val d'Or)よ!」と言ったということで、ここをオルヴァルと呼ぶようになった、と。
うーん、ちょっと突っ込みたいですよね。
ビール本とかを見るとこんな解説が書いてあって、以前は自分もそれを読んで納得していたんですが、そもそもなんで指輪をマスが持ってきてくれて「金の谷よ!」なんて言うんでしょうか。
常識的に考えて「なんて賢いマスなの!」とか、「Oh, my God!」(英語以外の言い方は知らん)とかじゃないですか。金の谷って、どこから出てきたんでしょう。
そうなると、この一帯は「賢いマス」という地域で、修道院も「賢いマス修道院」になったかもしれません。こうならなかったのは、何か大人の事情があったんでしょうか。「マスよりも金の谷のほうが、なんかカッコよくね?」的な。にしてもいきなり金の谷ってなに。
ただ、ラベルにはマスがしっかり描かれています。指輪もくわえてますね。
ただ、これはマスなのか、という疑問も残るタッチではありますが……。
そんなオルヴァル。
2年ぶりに飲んでみましょう。
軽いシトラス感がありますね。流行りのアメリカンIPAのようなバリバリオレンジ、バリバリグレフルというようなシトラス感ではなく、もう少し落ち着いたシトラス感です。
オルヴァルはドライホッピングという手法を使っていて(アメリカンIPAなどでもよく使います)、ホップの香りをより強く出しているんです。華やかな感じもします。
ホップ由来の苦味は強く(まあこれもアメリカンIPAのようなバリバリ苦味ではないですが)、軽いモルトの甘味も感じられるんですが、後味は比較的ドライ。あまり後まで残りません。
正直に言うと、これを初めて飲んだときはそれほど好みではないと思っていたんですけど、いま飲むとホントおいしいと思います。ビール醸造としての基本をしっかり抑えつつ、華やかな香りと苦味でちょっとオリジナリティを出した感じがいい。
いやあ、いいビールです。
私からは以上です。本日はありがとうございました。