ビール時報

富江弘幸(ビールライター)公式サイト

「最も有名な◯◯のひとつです」という表現

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最もネガティブな人のひとりである私です。

ここ数年で「最も有名なもののひとつ」とか「最もおいしいもののひとつ」という表現をよく目にするようになった気がします。いろいろなところでこの表現を見るのですが、はっきり言って大嫌いです。

もともとは英語表現からきたものだと思います。例えば、

Asahi Super Dry is one of the most famous beer brand in Japan.
アサヒスーパードライは日本で最も有名なビールブランドのひとつです)

というような感じですね(英文が文法的に正しいかどうかはあまり気にしないように)。直訳でなく、ちょっと意訳して「トップブランドのひとつです」とすればまだいいのですが。

論理的には、「最も」と言うからには唯一のはずです。それなのに、唯一が複数あるかのような表現になっているんですよね。それが気に入らないのです。「最も」なんでしょ? 唯一なんでしょ? と。

が。

その表現を使ってしまった場面がありました。先日、横浜で開催されたジャパンブルワーズカップでのこと。

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自分で使って自己嫌悪

「一番好きなビールは何ですか?」

よく聞かれる質問です。ビアライターを名乗っているとよく聞かれます。いつも回答に困るのですが、だいたい条件を付けることで逃げるようにしています。

店で聞かれたら、「この店のビールの中ではこれが一番好きですね」とか。

イベントで聞かれたら、「出店しているビールの中ではこれが好きです」とか。

そうやって、何か条件を付けたり、ビール選択の範囲を狭めたりします。まあ、聞くほうも本気で聞いてくるわけではないので、こちらで条件を付けても特に何も言われません。

「いやいや、そういうんじゃなくて、ガチで一番うまいのは何よ?」

なんて聞いてくる人はいないのです。なので、そうやって乗り切ってきました。

ですが、ジャパンブルワーズカップではちょっと状況が違いました。『ビール王国』のブースで自分の著書をお客さんに紹介しているときに、

「この本に出てくるビールの中で一番好きなのはどれですか?」

と聞かれたのです。いつも自分から条件を付けているのに、その時はお客さんから指定してきました。著書は365本のビールを紹介しているので、これだけあると無限と同じと言ってもいいくらいの条件。

これまで聞かれた中で、こういったパターンはなかったので焦りました。基本的に人と話すのが苦手なので、パターンにない対応はかなり焦るのです。そこで出てきた答えがこれ。パッと開いたページに偶然なかなか好きなビールが載っていたのでそれを指差し、

「あ、これなんか一番好きなビールのひとつですね」

と。

嫌いな表現を使ってしまい、答えた直後に自己嫌悪に陥ったのですが、お客さんは意外と納得してくれたようで、

「へえー! 今度飲んでみます!」

と、目を輝かせてこちらを見るわけです。

うーん、そういう反応をしていただけるならいいか……と思いつつ、適当な表現をしてしまった……とうなだれつつ。

まあ、相手が納得しているならいいってことにしておきましょう。もしかしたら、意外と役に立つのかもしれません。

でもやっぱり、これは最も嫌いな表現方法のひとつですね。

 

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